櫻井鉄矢社長は、宮城と盛岡で質屋「大黒屋」を6店舗展開する株式会社仙台買取館の代表であり、着物をアロハシャツに仕立て直して世界中の人々に売る「サムライアロハ」の代表でもあります。みちのくリーダーズ第3回のゲストとしてお話を伺いました。
大黒屋もサムライアロハも、売上の9割以上が県外・海外。櫻井社長は自社を「東北のお宝を世界に出す輸出産業」だと語ります。「日本製は品質では勝つが、流通で負ける」――東日本大震災をきっかけに地元へ戻った経営者の視点には、地方で戦うすべての人へのヒントが詰まっていました。
櫻井鉄矢社長とは。震災から生まれた「輸出産業」
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櫻井 鉄矢 (さくらい てつや) 株式会社サムライアロハ 代表 / 株式会社仙台買取館 代表取締役 宮城県岩沼市下野郷出身。大学進学を機に上京し、古物商大手・大黒屋に入社。27歳でフランチャイズ事業課の課長として全国の出店戦略を担う。2011年の東日本大震災を機に地元へ戻り独立。質屋「大黒屋」を宮城・盛岡で6店舗展開する仙台買取館を創業し、着物からアロハシャツを仕立てる「サムライアロハ」を立ち上げ。成田・羽田・東京駅などの出口エリアで世界中の旅行者に販売している。 |
※本記事はインタビュー内容をもとに、田口陽大が編集・再構成したものです。
岩沼出身、東京で古物大手・大黒屋へ
櫻井社長は宮城県岩沼市の出身ですが、大学からはずっと東京で暮らしていました。新卒で入社したのは、古物商大手の大黒屋。27歳のときにはフランチャイズ事業課の課長を任され、全国でどんな店舗をどこに出すべきかを考える出店戦略の仕事に携わっていたといいます。
扱う商材は海外製の高級ブランドが中心。「海外のお客様がどういう趣向で、どんな形で物を買うのか」に日常的に触れていた経験が、のちのビジネスの土台になりました。海外に物を売るための“ツボ”を、櫻井社長はこの時代にすでに掴んでいたのです。
2011年、震災で地元へ。課長が自らフランチャイジーになった
転機は2011年の東日本大震災でした。実家のある岩沼の地域が被災します。東京で一人暮らしを続けていた櫻井社長は、「自分だけ東京でのほほんと暮らしているのはどうなのか」と考え、地元へ戻る決断をしました。
東京での生活をすべて捨てることには、当然迷いもあったといいます。それでも、フランチャイズ課長としてノウハウを知り尽くしていた櫻井社長は、自分が担当していた大黒屋のフランチャイズをそのまま契約し、仙台で独立しました。「うちの課長がやるくらいだから、うちのフランチャイズはすごい」――会社にとってはむしろポジティブなニュースだったそうです。
そして地元では、震災で職を失った若者たちを集めて仙台買取館を立ち上げ、さらに同級生のお母さんたちを集めてサムライアロハを始めました。「震災がきっかけじゃなければ、うちのビジネスは生まれなかった」。櫻井社長はそう振り返ります。
大黒屋が「結界」になる。櫻井流の出店戦略
品目数で勝負する質屋
仙台買取館は、県内5店舗と盛岡1店舗の合わせて6店舗を展開しています。古物商として、また金券チケット商として、一つの企業でこれだけの店舗数を持つ例は仙台では珍しいと櫻井社長は言います。
大黒屋の買取価格が高い理由は、いたってシンプルです。質屋であり、チケット屋であり、外貨両替商であり、買取屋でもある。一つの店で扱う品目数が圧倒的に多いからこそ、高い値段を出せるのです。たとえば藤崎前店では米ドルの両替を一手に引き受け、相当な額を取引しているといいます。チケットだけ、金プラチナだけ、と専門店化すると、どうしても買値は安くなる。専門店が多いのは「知識」の問題だ、と櫻井社長は分析します。
一級河川と大山脈が、所得を分ける
出店戦略の背景には、櫻井社長独自の地理観があります。「日本の県は不思議なもので、一級河川と大山脈によって所得が変わる」という持論です。名取川を挟めば所得が約100万円違い、成瀬川を挟んだ古川と仙台でもまた違う。福島であれば奥羽山脈や蔵王の山並みを境に、浜通り・中通り・会津で所得が分かれる、というわけです。
だからこそ櫻井社長は、周囲が反対しても南仙台に大黒屋を構えました。「南仙台より長町のほうが都会だ」と言われたものの、長町の商圏は長町と八木山に限られる。一方で南仙台は岩沼・名取・相馬まで商圏が広がる。都会だからこそ、かえって遠方からは来ない――そう客観的に読んだ結果でした。
仙台中心部を囲む「大黒屋結界」
仙台中心部のアーケードでは、入口にあたるクリスロードと、出口にあたる藤崎前を押さえています。そこに北仙台、そして南仙台を加えた4か所で、櫻井社長いわく「大黒屋結界」が完成します。中心部の古物店へ向かおうとする客は、必ずどこかで大黒屋の前を通ることになる。15年ぶりに仙台へ戻り、自分の街を一からマーケティングし直した結果だといいます。
着物をアロハに。サムライアロハという発明
国内に眠る「2億着」の着物
サムライアロハは、着物からアロハシャツを仕立てるブランドです。古物商を営んでいるからこそ、原料となる着物をいくらでも集められる。国内には着られないまま眠っている着物が2億着あるとされ、古物市場では驚くほど安く流通しているといいます。
その着物を、手に取りやすい形に加工する。お母さんたちの内職で仕立て、ストーリー性を添える。一着の着物から一着しか作れない一点物だからこそ、世界中で売れると櫻井社長は考えました。「ビジネスの古典的な教科書を見ているよう」と田口が唸ったほど、理にかなった設計です。
「日本製は品質で勝ち、流通で負ける」
櫻井社長の根底には、一貫した問題意識があります。「日本製は品質では勝つが、流通で負ける」。職人ばかりで商人がいない、というのです。
世界一高性能な時計はG-SHOCKかもしれない。しかし売値はロレックスの100分の1、パテック・フィリップの1000分の1。最高級のシルクである着物よりも、ロゴの入ったブランドTシャツのほうが高く売れてしまう。物が良くても、それに見合った対価を得る“売り方”がなければ意味がない。だからサムライアロハは、高級ブランドが取っている戦略をそのまま当てはめている、と櫻井社長は語ります。そうして売り先を突き詰めていくと、行き着くのは自然と海外になるのです。
世界に売るための「3C理論」
櫻井社長が成田空港などでの販売経験から編み出したのが、独自の「3C理論」です。一般的な3C(顧客・競合・自社)とはまったく別物で、Contents(コンテンツ)・Culture(カルチャー)・Color(色)の3つを指します。これを使えば、世界中の人々の趣味嗜好が読めるといいます。
コンテンツの国か、カルチャーの国か
世界の国々は、「コンテンツにお金を出す国」と「カルチャーにお金を出す国」に分かれる、というのが出発点です。アジアの人々はコンテンツ志向で、ロゴやキャラクター――GUCCIと書かれたTシャツやガンダムのようなコンテンツにお金を払う。一方で欧米の人々はカルチャー志向で、富士山や刀、和紙、サムライといった文化的なモチーフにお金を払う。だからサムライアロハは、欧米の旅行者にとって強い訴求力を持つのです。
国旗の色が、その国の「売れる色」
次の鍵が色です。櫻井社長によれば、人が好む色はその国の国旗の色とほぼ一致します。日本人は白・赤・黒、中国の人は赤と黄、アメリカの人は青と赤、フランスの人は青・白・赤、中東の人は緑。だからある国に向けて売るなら、まずコンテンツ志向かカルチャー志向かを見極め、次にその国旗の色でパッケージを組めば、売れるパッケージができあがる、という理屈です。
ここに日本の伝統工芸の悲劇があると櫻井社長は指摘します。日本の最高級品は黒が基調になりがちですが、世界の多くの地域で黒は不吉とされ、売れない。良い物をそのまま海外へ持っていけば売れる、とはならないのです。この法則は、成田空港のレジでお客様のパスポートを見ながら「どの国の人が何を買ったか」を半年間メモし、世界各国出身のスタッフにひたすらヒアリングを重ねるなかで見えてきたものだといいます。
売れるのは「入口」ではなく「出口」
「成田に出せば売れるでしょう」という発想は間違いだ、と櫻井社長は言い切ります。旅行者はスタート地点でも観光地でも、なかなか物を買わない。最もお金を使うのは「出口」――旅の終わり、帰国の直前です。だからサムライアロハは、成田空港第2ターミナルの免税エリア出国口や、東京駅、クルーズ船の寄港する港など、日本を発つ人が最後に目にする場所に置いている。成田では1坪で月300万円を売り上げるといいます。発便に合わせてディスプレイの色も変え、朝のフィンランド便には水色を、昼の中国便には赤と黄を並べる徹底ぶりです。
価格は199ドル(199ユーロ)以下に統一しています。200ドルを超えると関税が発生する国が多いためで、それ以上の金額の商品は国内向けにしか作らない。「物を売るなら、まず売れる場所を確保することがいちばん大事」。これがサムライアロハの一貫した哲学です。
評価と売上は違う
サムライアロハと仙台買取館はこれまで数々の賞を受賞してきました。しかし櫻井社長は、ある時はっきりと気づいたといいます。「賞を取って、それが取引先の増加に繋がったか」と問えば、答えは繋がっていない。名誉にはなっても、名誉では腹は膨れないし、税金も払わなければならない。手段と目的が逆になっていたのです。
SNSのフォロワーを増やそうと躍起になった時期もあったものの、フォロワーが増えても売上が増えるわけではなかった。「ネットをうまく使って売らなければ」という強迫観念に振り回されるより、人の流れの多い場所に置く、美術に興味のある人のところで絵を売る――そんな当たり前のことのほうがずっと本質的だ、と櫻井社長は語ります。
東北の強みは「美術」
櫻井社長は、東北芸術工科大学の卒業展の作品販売を毎年手がけています。そこで必ず伝えるのが「明るい絵を描いてほしい」という一言。賞で評価される絵ほど暗くなりがちですが、家に飾って気分が晴れる売れる絵は、明るい絵だからです。評価と売上は違う、というここでも同じ原則が貫かれています。
東北の本当の強みは美術だ、とも櫻井社長は言います。都会の作品は流行に乗りやすい一方、東北は良い意味で情報が遮断されているため、独自の感性でオリジナルが生まれる。人気漫画家に東北出身者が多いのも、その表れだといいます。あとは「売る場所」さえ確保すればいい。たとえば美術館の出口に地元の美大生の絵を展示すれば、展覧会で感性を刺激された人がそのまま買っていく。日本は「描き方」は教えても「売り方」を教えない――その欠けたピースを、櫻井社長は古物商の目線で埋めようとしています。
伝統を守りすぎると、縮小する
着物にハサミを入れることは、もちろんタブー視され、批判もされます。それでも、廃棄されるよりはいいのではないか、と櫻井社長は問いかけます。どの業界でもマニアが新参者を認めなければ、新しい人は入ってこず、市場は縮小していく。「変化しなければ生き残れない」というダーウィンの言葉そのままに、手に取りやすい商品で接点をつくることが、結果として文化そのものの価値を高めることもあるのです。
仙台経済への提言
「買い物の街」仙台の強みと弱み
櫻井社長が最大の脅威と捉えているのは、メルカリのようなC to Cの台頭ではなく、仙台経済そのものの縮小です。高級ブランドは仙台三越などから次第に姿を消し、フォーラスやさくら野百貨店も縮小していきました。
その一方で、仙台には「買い物の街」という明確な役割があると櫻井社長は見ています。関東ではヴィトンやロレックスが予約制で行列ができるのに対し、仙台の藤崎なら気軽に買える。仙台のドン・キホーテは日本中の土産が一か所で揃う“買い物”の象徴で、その地域のインバウンドの嗜好を知るにはドンキを見るのが一番だ、ともいいます。課題は夜。百貨店が夜7時に閉まってしまうため、買い物に来た人も夜には東京へ戻ってしまうのです。
アーケードを「夜市」に
そこで櫻井社長が河北新報のコラムで提唱したのが、仙台アーケードの「夜市」構想です。アーケードには屋根があり、柱には電源があり、監視カメラまで揃っている。夜市の設備はすでに整っているのです。
インバウンドの旅行者は時差で寝不足気味なうえ、東南アジアの多くは暑さを避けて夜に活動する夜市文化を持つ。夜こそ外国人客で賑わうのは、そのためだといいます。消防法でアーケード内では火が使えませんが、それを逆手に取れば、既存の飲食店が自分たちで仕込んだ料理を出す形にできる。仮に3メートル区画を一晩5000円で貸し、600区画が埋まれば、一晩で300万円。年間に直せば約10億8000万円の賃料収入で、減価償却の要らない「銀座のビル3棟分」に相当する計算だと櫻井社長は語ります。実現していないのは、主催者が不在で、権利関係の調整が難しいからだといいます。
「ノスタルジックの罠」
もう一つ、櫻井社長が地域経済に対して鳴らす警鐘が「ノスタルジックの罠」です。過去の成功体験が良かったために、今もそれが続いていると思い込んでしまう。「人の目は、成功すると曇る」。だから流行を知りたいなら若者に聞くべきで、逆に経営がピンチのときは、何度もピンチを乗り越えてきた高齢の経営者に聞くべきだといいます。目の前に東北学院大学のような若い力があるのに、そのリソースをうまく活かしきれていない――そこに仙台の伸びしろがある、というのが櫻井社長の見立てです。経済格差が広がるなか、インバウンドを呼び込むことは待ったなしだと強調します。
読者へのメッセージ「トップを狙え」
最後に、地方でブランドをつくりたい人、インバウンドに挑みたい人へのメッセージを伺いました。櫻井社長の答えは明快でした。「トップを狙うといい」。
1位と組めば、2位以下とは自然と取引できるようになる。大丸と提携すれば他の百貨店も動き、東北大学と組めば他の大学も続き、ユニクロに次ぐ規模のアダストリアや、成田・羽田の空港と組めば周囲が一目置く。ドミノの最初の一枚、センターピンを倒しにいく発想です。そのために、どうすれば取引できるかを必死に考える。「小さな釣り針では小さな魚しか釣れない。クジラを釣るなら、大きな釣り針がいる」というわけです。
櫻井社長自身、アメリカのディズニーとの交渉に挑んで失敗した経験もあります。それでも――「中小企業なんだから、ホームランを空振りしてもいい。常にフルスイングして、たまにホームランが出たら勝ち」。ちまちまと成長していくよりも、一気に振り抜いて大きな一発を狙うところから考えたほうがいい。震災を機に地元へ戻り、東北のお宝を世界へ売り続けてきた経営者の言葉には、確かな実感が込められていました。
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櫻井社長との対談の全編はYouTubeでご覧いただけます。記事では紹介しきれなかったインバウンドの具体的な話も満載です。
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