「みちのくリーダーズ(東北進出編)」は、仙台・東北に進出してきた企業の経営者に話を聞く新シリーズです。仙台・東北が持つポテンシャルは、実は「ここには可能性がある」と見込んで進出してきた域外の企業こそ、よく知っているのではないか——そう感じたことが、この企画の出発点でした。初回のゲストは、補助金や税制優遇といった公的制度の活用支援を全国で手がける東大発のコンサルティング企業、株式会社プランベースの代表取締役・武衣貴志(ぶい)さんです。プランベースの補助金支援は、2019年の創業以来、製造業・物流業を中心に全国へ広がり、名古屋・大阪に続いて2026年2月には仙台にも拠点を構えました。
全国を飛び回る武衣代表の話からは、東北という地域に眠るポテンシャルが次々と見えてきます。「補助金は“取ること”がゴールではない」という支援の哲学、人手不足を乗り越えるためのAI活用、そして工場新設で東北が持つ“意外な強み”まで。域外から東北を見ているからこそ気づける視点は、地元で事業を営む経営者にとって、新しい一手のヒントになるはずです。
武衣貴志 代表取締役とは。東大発、公的制度活用支援のプランベース
![]() |
武衣 貴志 (ぶい たかし) 株式会社プランベース 代表取締役 大阪府出身。東京大学大学院を経て、在学中の2019年に仲間とプランベースを創業。当初は大手コンサルティングファームに在籍しながら関わり、のちに本格参画。補助金・税制優遇など公的制度の活用支援を軸に、製造業・物流業を中心とした中小企業支援を全国展開。名古屋・大阪・仙台に拠点を持つ。 |
※本記事はオンラインインタビューの内容をもとに、田口陽大が編集・再構成したものです。

学生時代の縁から生まれた会社
プランベースの創業は2019年。武衣代表は、東京大学の仲間とともに在学中に会社を立ち上げました。きっかけは、その学生時代にさかのぼります。当時、補助金支援を行う会社から事業計画書づくりの仕事を業務委託で請け負っていたところ、その取引先から「君たちでやってくれないか」と直接相談を受けた。それが独立の入口になりました。
その後、武衣代表自身は大手コンサルティングファームに就職します。そのため当初は経営の中心に立つのではなく、まずは株主という立場で会社に関わっていました。やがて公的制度の活用支援にじっくり向き合うため、本格的に経営へ。ちょうどコロナ禍で補助金や税制優遇への注目が一気に高まり、問い合わせが急増したことも、事業を前に進める追い風になりました。
プランベースの補助金支援が、全国に広がる理由
まず、プランベースの顧客は、製造業と物流業が中心です。特徴的なのは、機械商社やメーカーと提携している点。「設備投資をしたい会社がいる」「困っている会社があるから来てほしい」と紹介を受けて、全国へ足を運びます。1週間で仙台から盛岡、花巻までを一気に回ることもあるといいます。地域の会社にとっては、見知らぬ会社をネットで探すより、付き合いのある商社からの紹介のほうが、安心して任せられる。その信頼の連鎖が、全国展開を支えています。
正直に言えば、私自身、「補助金の事業者」と聞くと、どこか「少し怪しいのでは」と身構えてしまうところがありました。けれど、単発で終わらせず、この信頼の連鎖でビジネスを広げているという事実が、その懸念への答えでした。自分の固定観念を、いい意味で改めるきっかけになった話です。

なぜ東北に拠点を構えたのか
仙台は、名古屋と同じ距離
名古屋・大阪に続く拠点として、武衣代表が選んだのが仙台でした。東京駅から約1時間半。これは名古屋とほぼ同じ距離で、日帰りも十分にできます。「広島は遠いけれど、仙台は近い」。全国を相対的に見ているからこそ、東北は“行きやすい”エリアだと武衣代表は語ります。
私自身も、ここには「心の距離」という仮説があるのではないかと感じています。関西の人にとっては栃木より北が曖昧に感じられ、東北の人にとっては中国・四国・近畿が一括りに見える。けれど実際に足を運べば、仙台が東京からいかに近いかがわかる。全国を回る武衣代表にとって、その距離感はすでに当たり前のものになっていました。
引き合いは、拠点開設の前から
興味深いのは、仙台に拠点を立てる前から、名古屋・大阪の次に東北エリアからの引き合いが多かったことです。なかでも岩手が最多で、宮城・山形・秋田からの相談も増えていたといいます。北上や花巻の半導体関連、岩手の鋳造メーカーなど、設備投資に積極的な企業が、東北には多い。それが背景にあります。
そこに、東北への移住を希望する優秀な社員の存在が重なりました。東北エリアの営業を担い、高いパフォーマンスを上げていたその社員のために拠点を用意し、現地採用も視野に入れて、2026年2月に仙台オフィスを開設。「ゆっくりしたい」という思いと、地域で力を発揮したいという思いが両立する場所として、東北が選ばれたのです。
プランベースの補助金支援|「取ること」はゴールではない
インタビューで武衣代表が繰り返し強調したのが、プランベースの補助金支援が大切にする“本質”でした。世の中の支援会社や税理士は、ともすれば「補助金を取ること」自体が目的になりがちです。しかし武衣代表が大切にしているのは、補助金を使って、プロジェクトそのものを成功させること。そこにこそ本来の価値があると考えています。
だから支援は採択後も続きます。補助金によっては、入金後も毎年の報告が5年間続くものもある。発注先の業者とのやり取りに一緒に入ることもあります。また、省エネ設備への更新支援では、現場で今の機械の電力を測り、工場のエネルギー課題を診断することもあるそうです。メーカーからの紹介で成り立つビジネスだからこそ、「取って終わり」にはできない。受かった先で会社がうまくいくかどうかまで見届ける。その姿勢が信頼につながっているのです。
仮に今後、国が申請の受付システムにAIを組み込み、書類作成が自動化されたとしても――と武衣代表は言います。それでも、情報の非対称性を解き、成功まで伴走する部分の価値は残る。書類を作ること自体より、その先にこそ仕事の核心がある、という考えです。
地方の中小企業が抱える課題
社長の時間が、書類に消える
武衣代表が地域の中小企業に感じる課題の一つが、経営者の時間の使い方です。事業計画や申請書類の作成は、本来であれば社長や役員が担う仕事。そのため、書類作業に1ヶ月単位で経営層の時間が費やされてしまうケースも少なくないといいます。本当はもっと優先すべきことがあるのに、です。
背景にあるのが情報の非対称性です。首都圏では複数社に相見積もりを取って依頼する文化が根づいている一方、地域の会社は「どこがいい支援会社なのか分からない」。優秀な支援会社が東京や大阪に集中し、対面で会えないまま、結局は自分たちで抱え込むか、諦めてしまう。そのもったいなさを、武衣代表は強く感じています。
大手進出の“負の影響”と、人手不足
私は武衣代表に、「東北のポテンシャルは、大資本のメーカーが進出してくることにあるのか」と尋ねてみました。返ってきたのは、少し意外な答えでした。大手メーカーの進出は、中小企業にとって取引拡大のチャンスである一方、見落とされがちな副作用もある、というのです。それが採用への影響でした。工業高校を卒業する新卒の若者が、軒並み大手メーカーに採用されてしまう。結果として、地域の中小企業が人材を確保する難易度もコストも跳ね上がっているといいます。
そこで必要になるのが省力化の発想です。ただしそれは「人を減らすため」ではありません。人が採れないなかで、今の人数のまま事業規模を維持するための省力化。この視点の転換が、これからの地域の中小企業には求められています。
地方こそ、AIを使う価値が大きい
人手不足への対応として、かつてはシステム導入のハードルが高い時代が続きました。基幹システムを入れて全社のDX戦略を描こうとすると、見積もりが1億円に達することもある。中小企業にとっては現実的ではありません。しかし、今のAIは、安価でありながら高性能です。プランベースには社内エンジニアもおり、顧客の業務や既存システムに合わせたオーダーメイドのシステム開発まで手がけています。
また、経済産業省も「地方発のAI活用」を後押しするテーマを掲げているといいます。東京は情報も人も集まり、すでにAIへの機運が高い。一方で、地域は採用のハードルが高い分、AIを活用するメリットがむしろ大きい。コストも高くないのだから、まずは挑戦してみたほうがいい――それが武衣代表の見立てです。
導入を決めるのは、社長のやる気
とはいえ、現場へのAI導入は簡単ではありません。「得体の知れないものから出てくる情報を信じられるか」というハードルは、確かに存在します。便利だと分かっていても、長年のやり方を変えるのは容易ではない。
そこで武衣代表が挙げるのが、社長の姿勢です。社長自身が詳しくある必要はありません。社内で一番若く、そういうものが好きそうな社員を見つけて、とにかくたくさん触らせてみる。それだけでも、ずいぶん前に進むといいます。問題は、今のやり方を好む古参の社員の抵抗を、社長が押し通せるかどうか。最後はやはり、経営者の気持ち次第なのです。
今後の展望|地域に根ざした補助金支援へ
プランベースが目指すのは、各地域に根ざした補助金支援です。首都圏よりも、専門人材が不足し課題解決のハードルが高い地域の中小企業を支えていく。これは会社としての明確な方針であり、名古屋・大阪・仙台の各拠点を現地採用で拡大していく考えです。
工場用地という、東北の意外な強み
さらに、補助金の潮流にも変化があるといいます。コロナ期の「浅く広く」というばらまき型から、大型プロジェクトに集中的に資金を投じる流れへ。1社あたりの金額は増える一方で、採択される会社の数は絞られてきている。そうなると鍵を握るのが「工場をどこに建てるか」です。神奈川や埼玉といった首都圏では用地がなかなか確保できず、スケジュールが合わないケースが起こりがち。ところが東北では、工場用地が決まっている企業が多く、補助金のスケジュールに合わせやすい。ここに、東北の大きな可能性があると武衣代表は見ています。
読者へのメッセージ「まずはAIを触ってみてほしい」
最後に、地方で事業を営む読者へのメッセージを伺いました。「まずはAIを触ってみてほしい」。それは自社に依頼してほしいという話ではなく、無料のツールでも構わないから、まず使ってみることが大事だという呼びかけです。資源も豊かで、半導体関連をはじめポジティブな動きも増えている東北。人手不足という縮みがちな空気のなかで、この変化に飛び込めるかどうか。一歩を踏み出せば、東北は秘めたポテンシャルを発揮できる――全国を回る経営者の言葉には、確かな期待がこもっていました。
御社の挑戦を、動画で届けませんか?
トーホクテレビでは、東北で挑戦する企業の採用ドキュメンタリー・社長インタビューを制作しています。「給料はいいのに人が来ない」そんな課題を動画と拡散力で解決します。

