東北のインバウンドが急成長しています。しかし、東北インバウンドは宿泊者数が増える一方で「お金を落としてもらえていない」という課題が浮き彫りになっています。
東北インバウンドはなぜ稼げないのか?
東北の外国人宿泊者数は2024年に229万人泊と過去最高を記録しましたが、宮城県の消費単価は7.6万円で東京(15.8万円)の半分以下です。最大の原因は夜にお金を使う場所がない「ナイトタイムエコノミーの欠如」です。SNSを活用した戦略的な発信が、消費単価を引き上げる鍵になります。
東北インバウンドの課題をデータで読み解く
具体的には、宮城県のインバウンド消費単価は1回あたり7.6万円です。つまり、東京の15.8万円と比べると半分以下の水準にとどまっています。
そこで今回、私(田口)がプロデューサーを務める「みちのくエコノミクス」で取材を行いました。ゲストは七十七リサーチ&コンサルティング 首席エコノミストの田口庸友氏です。
結論から言えば、東北のインバウンドには大きな伸びしろがあります。つまり、宿泊者数の成長をいかに「消費額の成長」に転換できるかが勝負です。
なお、仙台の経済構造については別記事「仙台は全国一の支店経済」で解説しています。この支店経済ゆえの「出張・ビジネス客頼み」の体質が、観光消費の伸び悩みにも影響しています。
※本記事は番組での対談内容をもとに、田口陽大が編集・再構成したものです。
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田口 庸友 (たぐち やすとも) 七十七リサーチ&コンサルティング 首席エコノミスト(上席研究員) 秋田県出身、秋田高、東北大学法学部卒。七十七銀行グループのシンクタンクで東北経済の調査・分析を担当。仙台・東北の経済動向、地域金融、人口動態に精通。数多くのメディアに出演し、仙台・東北経済を第一線で発信している。 |
東北インバウンドの現在地|宿泊者数229万人泊の過去最高
2024年に229万人泊を記録
まず数字から見ていきます。実際に、東北6県の外国人延べ宿泊者数は2024年に229万人泊を記録しました。コロナ前の2019年(185万人泊)を大きく上回っています。具体的には、秋田県を除く5県で2019年を超え、過去最高を更新しています。
この背景には、円安による訪日需要の高まりと仙台空港を中心とした直行便の増加があります。東北インバウンドの成長を牽引する要因です。特に台湾・韓国からの旅行者が急増しています。
■ 東北6県の外国人延べ宿泊者数(2024年)
合計229万人泊(過去最高)|出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」
※2019年は185万人泊。秋田県を除く5県で過去最高を更新
| 宮城県 |
77万人泊
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| 福島県 |
44万人泊
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| 山形県 |
38万人泊
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| 青森県 |
35万人泊
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| 岩手県 |
25万人泊
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| 秋田県 |
10万人泊
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■ 東北インバウンド宿泊者数の推移(2019年 vs 2024年)
出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」
| 県 | 2019年 | 2024年 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 宮城 | 56万 | 77万 | +37% |
| 福島 | 36万 | 44万 | +22% |
| 山形 | 34万 | 38万 | +12% |
| 青森 | 23万 | 35万 | +52% |
| 岩手 | 14万 | 25万 | +79% |
| 秋田 | 21万 | 10万 | -52% |
| 合計 | 185万 | 229万 | +24% |
宮城県が東北インバウンドの中心
県別で見ると、宮城県が77万人泊で東北トップです。さらに、青森県もりんごと台湾の深い関係を背景に急成長しています。
田口氏によれば、青森の前三村知事が20年間にわたり台湾にりんごを売り込み続けました。その結果、台湾では「青森=りんごの産地」という認知が定着しています。つまり、地道なブランディングの積み重ねが東北インバウンドの誘客に直結している好例です。
東北インバウンドの弱点|消費単価が東京の半分以下
宮城県7.6万円 vs 東京15.8万円
ところが、宿泊者数が増えても「稼げていない」のが東北インバウンドの現状です。具体的には、宮城県のインバウンド消費単価は1回あたり7.6万円です。これは福岡の10万円、北海道の12.7万円、東京の15.8万円と比べると圧倒的に低い水準です。
■ 東北インバウンド消費単価の比較(1回あたり)
出典:観光庁「インバウンド消費動向調査」
| 東京都 |
15.8万円
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| 北海道 |
12.7万円
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| 福岡県 |
10.0万円
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| 宮城県 |
7.6万円
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| 広島県 |
4.4万円
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ナイトタイムエコノミーの欠如が原因
田口氏はその原因を「夜の時間帯にお金を使う場所がない」ことだと指摘します。実際に、仙台の商店街は夜8時を過ぎるとシャッターが閉まり、コンビニしか選択肢がなくなります。
一方で、福岡には屋台文化があり夜の消費が活発です。その結果、消費単価にも大きな差が出ています。つまり、インバウンドの旅行者は「夜も楽しみたい」というニーズが強いのです。しかし、仙台ではホテルに戻ってテレビを見るしかないのが実態です。
我々の日常は彼らの非日常|東北の「隠れた観光資源」
仙台大観音とキツネ村の衝撃
さらに興味深いのは、インバウンドが訪れる場所と地元の「観光地」がまったく違うという点です。
田口氏がタクシー運転手に聞いた話があります。中国人観光客に人気のスポットは松島でも青葉城でもなく仙台大観音でした。また、白石市の蔵王キツネ村も注目の事例です。台湾のインフルエンサーがSNSで発信したことをきっかけに外国人が殺到しました。
つまり、我々が「観光地」だと思い込んでいる場所と外国人が魅力を感じる場所にはギャップがあるのです。田口氏は「我々の日常は彼らの非日常」という言葉でこの現象を表現しました。
ラーメンと居酒屋が最強のインバウンド観光資源
特に、日本のラーメンと居酒屋はインバウンドにとって「安くて美味しい非日常体験」です。実際に、ラーメンは世界的に見ても圧倒的にクオリティが高く、しかも円安で割安感があります。さらに、居酒屋もまた「色々なメニューがどれもそれなりに美味しい」という驚きを与えています。
しかし、こうした日常的な飲食資源を東北インバウンドの観光戦略に組み込めていないのが現状です。なぜなら、地元の観光業界が古い「観光地」のイメージに縛られているからです。田口氏はリソース配分の偏りを指摘しています。
秋保温泉モデル|民間主導で変わる東北の観光地
行政ではなく民間が作り上げた成功例
では、東北に成功事例はないのでしょうか。実際に、田口氏が注目するのが仙台市内の秋保温泉です。
田口氏は銀行時代に秋保を担当しており、当時は「さびれた温泉街」だったと振り返ります。ところが現在は平日の日中に若い女性が訪れるエリアに変貌しています。具体的には、雑貨屋・カフェ・飲食店が増えました。さらにワイナリーやブルワリーといったアルコール提供施設もできています。
特にアルコール提供は重要です。なぜなら、お酒が入ることで滞在時間が長くなり気分も緩んで消費が増えるからです。
「よそ者」と地元の協業がカギ
秋保の変化で特に重要なのは行政主導ではなかったという点です。田口氏によれば、地域の将来を憂えた人たちが「よそ者」と協力しながらコンテンツを作り上げてきました。
一方で、行政が旗を振る観光施策は単年度予算に縛られマンネリ化しやすいという課題があります。その結果、民間主導で時間をかけて作り上げた秋保のようなモデルの方が持続可能だということです。
つまり、観光地の再生に大規模な箱物投資は必要ありません。「外国人が何に感動するか」を理解した上での小さなコンテンツの積み重ねが重要なのです。
東北インバウンドの消費単価を上げる方法|SNSが鍵
インフルエンサーの発信力が地方を変える
蔵王キツネ村の事例が示す通り、東北インバウンドの誘客においてSNSの影響力は絶大です。実際に、外国人旅行者の多くがSNSで見た情報をもとに旅行先を決めています。
田口氏も「効果的に発信していけば、まだまだ東北インバウンドは伸びる」と述べています。なお、SNS発信と地域の関係性については「東北の関係人口はなぜ全国1位なのか」でも詳しく解説しています。特にInstagramのリール動画は言語の壁を超えて魅力を伝えられます。地方の観光施設にとって最も有効な発信手段の一つです。
消費単価を上げるための3つの方向性
今回の対談から見えてきた、東北インバウンドの消費単価を上げるための方向性は以下の通りです。
- ナイトタイムエコノミーの充実。具体的には、商店街のシャッター後のスペース活用や一番町四丁目のような屋根のないエリアでのイベント開催が考えられます
- 「我々の日常」を観光資源として再定義する。たとえば、ラーメン・居酒屋・朝市など地元にとって当たり前のものが外国人にとっては特別な体験になります
- SNSでの戦略的な発信。なぜなら、蔵王キツネ村のようにたった1人のインフルエンサーの投稿が観光地を生み出す時代だからです
※東北のインバウンド宿泊統計は観光庁「宿泊旅行統計調査」で確認できます。
動画で詳しく見る
本記事は、トーホクテレビ「みちのくエコノミクス」の動画内容を再構成したものです。田口庸友氏の解説では、支店経済の構造分析や関係人口の議論なども語られています。ここでは紹介しきれなかった内容も豊富です。
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