バイタルネットの一條武社長に、みちのくリーダーズ第1回のゲストとしてお話を伺いました。正社員約1,260名を率い、東北から首都圏まで52箇所の物流拠点を持つ医薬品卸のトップです。
「問題が山積みなら、やることがいっぱいある。それはチャンスだ」。そう語るバイタルネット一條武社長の言葉には、東北で事業を営むすべての人へのヒントが詰まっています。
バイタルネット一條武社長が語る東北経営のリアル
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一條 武 (いちじょう たけし) 株式会社バイタルネット 代表取締役社長 仙台市青葉区生まれ。東北学院大学工学部卒。1985年サンエス(現バイタルネット)入社。2015年より代表取締役社長。東北6県・新潟・首都圏に52拠点を展開し、60以上の自治体と健康協定を締結。都市対抗野球に出場する企業野球部も率いる。 |
※本記事はインタビュー内容をもとに、田口陽大が編集・再構成したものです。
仙台の真ん中で65年。バイタルネットの歴史
「大手町1-1」に本社を構える理由
インタビューの舞台は、地下鉄東西線・大町西公園駅から徒歩30秒のバイタルネット本社ビルです。実はこのビル、3年前に建て替えたばかり。それまでは62年間使い続けたオフィスだったそうです。
一條武社長いわく、ループル仙台の運転手さんに「いい会社なのにボロいですよね」とマイクで言われたことが建て替えのきっかけでした。住所は仙台市青葉区大手町1-1。つまり、かつての城の内側にあたる由緒ある場所です。
味噌醤油屋、酒屋、納豆屋から始まった
バイタルネットは何十社もの合併を重ねて現在の姿になりました。しかし、もともとは薬屋ではなかったのです。一條武社長によると、合併元の企業は味噌醤油屋、納豆屋、酒屋が出発点でした。
昔は商学科が少なく、多くの経営者が薬学部に進んだそうです。そこから薬剤師となり、薬局を始め、やがて卸売業に転換していきました。特に1961年の国民皆保険制度の導入後、医療用医薬品の需要が爆発的に伸び、卸部門が急成長したのです。
バイタルネットが地方で勝てる理由
医療は「地方」のビジネスである
バイタルネットの売上の95%は医療用医薬品の卸売です。病院・診療所・調剤薬局が主な顧客で、完全なB2Bのため一般の方には馴染みが薄いかもしれません。
しかし、この業界には地方企業ならではの強みがあります。一條武社長はこう語ります。「医療は地方なんです。大きな卸を分解してみると、結局それぞれの地域で強い会社の集合体にすぎない」と。
大学医学部と自治体との連携が武器
東北には各県に医学部があります。東北大学、弘前大学、秋田大学、山形大学、福島県立医科大学。こうした大学の先生方と一緒に市民公開講座を開催できるのは、地元に根づいた卸ならではの強みです。
さらにバイタルネットは60以上の自治体と健康協定を結んでいます。大学と自治体、その両方と組めるからこそ、東京から進出してきた大手卸にも負けない関係性を築けるのです。
日本の医療は「同じ値段」だからこそ地方が有利
一條武社長が指摘した意外な事実があります。日本では国民皆保険のおかげで、どこで受けても同じ医療を同じ診療報酬で受けられます。
つまり、東京はコストが高すぎるだけ損をします。一方で、地方はコストが安い分だけ有利に動ける。バイタルネットの52箇所の物流拠点は、合併前の各社の本社がそのまま拠点になっているため、減価償却が終わっており運営コストも低いのです。
震災と新しい挑戦。一條武社長の「変身」戦略
3.11の翌日から動いた命のインフラ
東日本大震災のとき、バイタルネットは翌日から配達を再開しました。原発事故が起きても届け続けたそうです。なぜなら、薬が届かなければ患者さんの命に関わるからです。
一條武社長はこの仕事を「経済安全保障ではなく、国家安全保障だ」と表現しました。震災から15年が経った今でも、当時の対応について年に複数回の講演依頼があるそうです。普段は目立たない仕事だからこそ、その重みは計り知れません。
診療報酬の壁を「変身」で越える
医薬品卸業界には構造的な課題があります。国が薬の値段を決めるため、売上が伸びにくいのです。実際に総額ベースでは10年間ほぼ横ばいだといいます。
そこでバイタルネットは新しい領域に踏み出しました。子会社のメドリップファーマを設立し、欧米で承認済みなのに日本に入ってきていない医薬品を導入する「ドラッグラグの解消」に取り組んでいます。さらに農業用ドローンや動物薬、介護事業など事業を多角化しています。
一條武社長は社内で「変身・全身・自信」というスローガンを掲げています。まず変わる。次に前に進む。積み重ねた実績が自信になる。同じことを続けていては生き残れないという危機感が原動力です。
一條武社長が語る「問題が山積みは最高のチャンス」
東北に眠る可能性を掘り起こす
インタビューで特に印象的だったのは、一條武社長の「考え方」に対する信念でした。東北には確かに課題があります。人口減少、震災の影響、支店経済の構造。しかし一條武社長は「問題が山積みなら、解決することがいっぱいある。全部終わっていたら手の打ちようがない」と言い切りました。
実際に福島第一原発の周辺には新しい研究機関が次々と集まっています。南相馬市ではレプリコンワクチンという最先端の技術が開発されています。また東北大学が国際卓越研究大学に選ばれたことで、次世代放射光施設ナノテラスとともに研究人材の集積が加速しているのです。
東京にないものが東北にはある
一條武社長はこう続けます。「土地がある。水がある。電気を安定供給できるインフラがある。AIやデータセンターに必要な条件が揃っている」と。
東京のマンションは最低1億円でコストが高すぎます。一方で、仙台から東京まで新幹線で1時間半。情報は取りに行ける距離です。「ここで何ができるのか。考え方を変えれば、伸びるものは絶対にある」。この言葉はバイタルネットの経営哲学そのものであり、地方で事業を営むすべての人への力強いメッセージでした。
読者へのメッセージ。楽しいか、燃えてるか、輝いてるか
インタビューの最後に、一條武社長が全社員に配っているという紙の内容を教えていただきました。そこに書かれているのは、たった3つの問いかけです。
「楽しいか。燃えてるか。輝いてるか」。
どんな場所にいても、自分が楽しいと思える仕事を見つける。その情熱で燃えれば、自然と輝く。輝けば、その地域が発展していく。仙台の中心で65年以上にわたり東北の医療を支え続けてきたバイタルネット一條武社長の言葉には、確かな重みがありました。
動画で詳しく見る
バイタルネット一條武社長との対談の全編はYouTubeでご覧いただけます。記事では紹介しきれなかったエピソードも多数ありますので、ぜひご視聴ください。
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