「仙台は支店経済の街」。この言葉を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。
仙台の支店経済とは?
仙台市は、県外に本社を置く企業の支店・支社が経済の大きな割合を占める「全国最大の支店経済都市」です。事業所の27.9%が県外企業の支店(全国1位)であり、働く人の41.5%が支店勤務という突出した構造を持っています。高い平均賃金や再開発投資という「光」がある一方、利益の東京流出やコロナ禍での脆弱性という「影」も抱えています。
仙台の支店経済をデータで読み解く|みちのくエコノミクス
しかし、実際にどの程度の支店経済なのか、そしてそれが仙台にとって良いことなのか悪いことなのか、データで語られる機会は意外と少ないものです。
そこで今回、私(田口)がプロデューサーを務めるYouTube番組「みちのくエコノミクス」の収録にて、七十七リサーチ&コンサルティング 首席エコノミストの田口庸友氏に仙台経済のデータを直接見せていただきながら話を伺いました。
結論から言えば、仙台は桁違いに全国1位の支店経済都市です。つまり、この構造を理解することは仙台で事業を営むすべての企業にとって欠かせない視点になります。
※本記事は番組での対談内容をもとに、田口陽大が編集・再構成したものです。
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田口 庸友 (たぐち やすとも) 七十七リサーチ&コンサルティング 首席エコノミスト(上席研究員) 秋田県出身、秋田高、東北大学法学部卒。七十七銀行グループのシンクタンクで東北経済の調査・分析を担当。仙台・東北の経済動向、地域金融、人口動態に精通。数多くのメディアに出演し、仙台・東北経済を第一線で発信している。 |
仙台が「全国1位の支店経済」である根拠
事業所の約3割が県外企業の支店
そもそも支店経済とは、県外に本社を持つ企業の支店・支社が地域経済の大きな割合を占めている状態を指します。
具体的には、田口氏が示したデータによると仙台市内の事業所のうち27.9%が県外企業の支店でした。つまり、これは首都圏を除く全国の県庁所在地でダントツの1位であり、2位の盛岡市(21.6%)との差は約6ポイントもあります。
さらに驚くべきは従業者の割合です。実際に、仙台市で働く人の41.5%が県外企業の支店に勤務しています。さらに、そのうち東京本社の企業で働く人が約25%を占めるため、仙台で働く4人に1人は東京の企業に雇用されている計算になります。
■ 県外企業の支店が全事業所に占める割合
※首都圏(1都3県)除く県庁所在地|出典:総務省「令和3年度経済センサス」
| 仙台市 |
27.9%
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| 盛岡市 |
21.6%
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| 福岡市 |
19.1%
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| 山口市 |
17.4%
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| 宇都宮市 |
16.7%
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なぜ仙台の支店経済だけがここまで突出しているのか
収録中に私が直接伺ったところ、田口氏は「東北に仙台のライバル都市がない」ことを理由に挙げました。
たとえば、九州には福岡以外にも北九州・熊本があります。また、中国地方には広島のほか岡山もあります。一方で、東北では企業が支店を置くなら仙台一択です。その結果、この「一強構造」が仙台の支店経済の集中を生んでいるのです。
仙台の支店経済の「光」|札仙広福の中で最も高い平均賃金
GDPでは4位なのに平均賃金は1位
支店経済は悪いことばかりではありません。実際に、仙台には明確なメリットがあります。
具体的には、地方中核4都市(札幌・仙台・広島・福岡)の比較で、名目総生産(GDP)は人口に比例するため札幌・福岡が上位に位置します。
ところが、1人当たりの市民雇用者報酬(平均賃金に近い指標)で見ると仙台が4都市の中でトップに躍り出ます。なぜなら、大企業の支店が多いことで地元企業より高い給与水準が全体の平均を押し上げているからです。
■ 地方中核4都市の経済力比較(2020年度)
出典:内閣府「県民経済計算」
| 都市 | 名目総生産 | 1人当たり市民所得 | 1人当たり雇用者報酬 |
|---|---|---|---|
| 札幌市 | 7.5兆円 | 270万円 | 450万円 |
| 仙台市 | 5.0兆円 | 320万円 | 530万円 ★1位 |
| 広島市 | 5.5兆円 | 330万円 | 430万円 |
| 福岡市 | 7.6兆円 | 290万円 | 420万円 |
仙台の再開発投資も支店経済の恩恵
特に金融・通信・インフラ系の支店がこの賃金上昇の傾向を強めています。さらに、仙台市内で進む大規模な再開発事業も県外資本の投資によって実現しているケースが目立ちます。
つまり、地元企業だけでは難しいプロジェクトが仙台の支店経済の力で動いている側面があるのです。
仙台の支店経済の「影」|コロナ禍で露呈した脆弱性
京都と同水準のマイナス6.1%
一方で、支店経済には構造的なリスクもあります。実際に、それがはっきりと表面化したのが2020年のコロナ禍でした。
具体的には、仙台市の2020年度の実質経済成長率はマイナス6.1%。つまり、これは国際観光都市・京都と同水準の落ち込みです。
しかし、京都はインバウンド消失が主因でした。それに対して仙台の場合は首都圏との往来が止まったことが最大の打撃だったのです。具体的には、出張需要やビジネス客向けのホテル・飲食・土産などが一斉に蒸発しました。
なお、東北のインバウンド消費の課題については「東北インバウンドはなぜ消費単価が低いのか?」で詳しく解説しています。支店経済への依存を脱却するヒントにもなる内容です。
■ 2020年度 政令指定都市 実質成長率
出典:内閣府「県民経済計算」
| 福岡市 | -6.7% | |
| 名古屋市 | -6.3% | |
| 仙台市 | -6.1% | |
| 京都市 | -6.1% | |
| 政令市平均 | -4.4% | |
| 広島市 | -3.4% |
県外企業は撤退も早い
さらに田口氏は、県外企業の撤退スピードの速さも指摘しました。「県外企業は非常にドライ。採算が合わないと判断したら、すぐに撤退してしまう」。
実際に、私自身も広告代理業で仙台の商業施設に関わる中でこの傾向を実感しています。その結果、仙台中心部の6つの商店街では空き店舗が急増しました。しかし、2024年時点でも完全には回復していない状況が続いています。
なぜ仙台には「稼げる産業」が少ないのか
年間21兆円が東京本社へ流出する構造
仙台の支店経済のもう一つの影は利益の東京流出です。具体的には、東京都の産業連関表に「本社」という産業部門があり、全国の支店から年間約21兆円を吸い上げている構造が示されています。そのため、仙台で上げた収益も相当部分が東京本社に還流しているのです。
つまり、仙台に残るのは主に人件費です。その結果、再投資や設備投資は本社判断になるため、地域にお金が回りにくい構造になっています。
■ 仙台の「稼ぎ」の構造(単独・本社・支店別 純付加価値額の割合)
出典:総務省「令和3年経済センサス活動調査」
| 区分 | 札幌 | 仙台 | 広島 | 福岡 |
|---|---|---|---|---|
| 単独事業所 | 24.1% | 14.3% | 21.7% | 21.5% |
| 本所・本社 | 22.3% | 17.3% | 19.7% | 19.7% |
| 支所・支社・支店 | 53.6% | 68.4% | 58.6% | 58.8% |
仙台は支社・支店が稼ぐ割合が68.4%と4都市中で突出。一方、東京の「本社」部門は全国の支店から年間21兆円を吸い上げており、この金額は1985年の13兆円から増加の一途をたどっています。
「稼げない産業構造」という根本課題
さらに田口氏は、仙台の産業構造そのものの課題にも言及しました。たとえば、広島にはマツダ、静岡にはスズキ、愛知にはトヨタという「外貨を稼ぐ製造業の本社」があります。
一方で、仙台は人口に依存した商業・飲食・サービス業が中心です。つまり、これらは「非基盤産業」と呼ばれ、域外からお金を持ってくる力が弱い業種です。特に飲食業は労働生産性が低く、「競争は活発でも稼げない」構造になっていると田口氏は述べています。
また、企業誘致(トヨタ東日本・東京エレクトロン)の成果は大きかったものの、生産波及効果は愛知や広島と比べて低水準にとどまっています。なぜなら、長年かけて形成されたサプライチェーンがないため部品調達も県外に依存せざるを得ないからです。
※宮城県の製造品出荷額の推移については宮城県統計課の公開データでも確認できます。
仙台経済の未来|支店経済を「使い倒す」という発想
解消ではなく活用が現実的
では、仙台はこのまま支店経済の影に飲まれるのでしょうか。しかし、田口氏の結論は明確でした。
「仙台の支店経済を解消しようというのは非現実的。むしろこれを強みとして使い倒すべきだ」。
私自身、愛知県出身で仙台に来た「よそ者」の一人です。そのため、田口氏が指摘する「西から来た人がうまくいっている」という傾向には納得感があります。東北のポテンシャルとアクセスの良さを外の目線で活かせることが強みなのだと感じています。
3つの具体的な方向性
具体的には、以下のような方向性が示されました。
- 東京との近さ(新幹線1時間半)を最大限活用する。つまり、移住を求めるのではなく2拠点居住や関係人口として東京の人材を呼び込むということです
- AI普及による東京の労働需要減を逆手に取る。実際に、情報サービス産業82万人のうち仕事が代替される層が地方に流れる可能性があると田口氏は指摘しています
- 「3流の都会」ではなく「1流の田舎」を目指す。なぜなら、食・自然・温泉へのアクセスの良さこそが仙台の拠点性であり最大の差別化になるからです
関係人口で東北が上位を独占
また、国土交通省の調査によれば関係人口の割合が高い地域は東北に集中しています。具体的には、1位が山形、2位が秋田、3位が岩手です。
この背景には、東日本大震災で築かれた絆があります。さらに、東北6県すべてに新幹線が通っているアクセスの良さも関係人口を呼び込みやすい要因になっています。
※関係人口の調査結果は国土交通省のサイトで確認できます。
動画で詳しく見る
本記事は、トーホクテレビ「みちのくエコノミクス」の動画内容を再構成したものです。田口庸友氏の解説では、インバウンド戦略や「東北の関係人口がなぜ全国1位なのか」についても詳しく語られています。
東北の経済を深く知りたい方は、ぜひトーホクテレビのチャンネル登録もお願いいたします。
なお、本番組にはこれまで村井嘉浩 宮城県知事、バイタルネット 一條社長、エムシス 瀧川社長など東北の経済界を代表するゲストが出演しています。
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